旧鎌倉図書館関連 会報掲載報記事


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 No.169~173 の記事はこちらのページでご覧ください。



会報182号(2017.3.29)掲載記事  ―旧図書館改修基本設計の説明会報告―

書庫の床板は撤去し二階建てに 文化財登録は目指す


3月11日に市による旧図書館耐震改修等基本設計の説明会が行われました。 市側の出席者は管財課1名、建築住宅課4名、青少年課2名、こどもみらい課1名、設計会社3名の計10名、参加者は14名でした。
まず建築住宅課の都築課長より基本設計案の説明がありました。概要は以下の通りです。

この建物は改修後、子どもの家、子ども会館として活用する。外観は景観や文化財登録を配慮して修復する。
内部は児童施設として安全性や使いやすさを優先して改修する。 1階は図書室、乳幼児室、事務室を配置し、プレイルームを組合事務所があった場所に増築する。 130㎡の広さをもつプレイルームは棟続きにつくるが道路より奥に引っ込めて外観も旧図書館部分と差別化したデザインにする。 子ども会館としての機能は1階に限定する。2階の部屋はすべて子ども室とし、子どもの家専用のスペースとする。 書庫があった3階は床板を撤去し2階の子ども室から屋根裏の小屋組みを見られるようにする。3階に上がる階段も撤去する。
(別添の「基本設計概要」参照)

今後のスケジュールは、平成29年度の前半に実施設計、後半は工事発注準備、契約となる。平成30年度に耐震改修・増築工事を行い、平成31年度に子どもの家・子ども会館を開館する。 この説明を受けて質疑が行われましたが、そこで明らかになったことを以下に述べます。

3階の書庫をのちに修復できるように撤去した部材は保管する。婦人閲覧室は創建時は板敷で床の高さも他の室と同じだった可能性があるが、今の形を残してほしいという意見については実施設計の中で検討したい。 この建物がもとは図書館だったこと、篤志家の寄付によってできたことなどが書かれた説明板を建物の内部だけでなく道路から見えるところにも設置することについては前向きに検討する。 敷地への出入り口は道路側につくり、御成小学校の生徒は学校側から入れるようにするが、基本は道路側の入り口を使ってもらう。御成門から入ったところに旧図書館、旧講堂にも行けるスペースはつくるという点については管轄外なので答えられないが難しいと思う。
期間を決めて旧図書館の中を見学するというのも難しい。プレイルームを予定している場所に大きなクスノキがあり象徴として残せないかという要望についてはプレイルームの必要な広さを確保できなくなるので応じられない。 文化財登録については基本設計ができたので、これから県を通して文化庁に申請の手続きを行う予定ということでした。

説明会の時間は1時間と設定され、以上のような内容で終了となりました。時間切れで予算がらみのことなどは確認できなかったので、後日管財課に問い合わせたところ、来年度当初予算に計上しているということなので行政資料コーナーで予算書を閲覧しました。 それによると、御成小学校学童保育施設整備事業費として平成29年度74,716千円、30年度172,098千円、計246,814千円とありました。別のページに実施設計業務委託料20,012千円と掲載されており、実施設計も基本設計と同様に業者委託となるようです。

建物自体のこととは別に、子どもの家・子ども会館としての活用計画についても説明がありました。現在の御成子どもの家の定員149名にたいして161名の申請があり、整備を急いでいる。 2階の子どもの家に60名を受け入れ、それ以外は放課後教室(利用無料)と組み合わせた放課後子ども総合プランで対応していきたいということでした。概略的な説明でわからないことが多く、今後担当課に具体的な説明の機会を求めていきたいと考えています。    


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会報181号(2017.1.18)掲載記事  鎌倉市議会報告

議会報告② 12団体による旧鎌倉図書館活用に関する陳情は採択されず


 前号の会報でもお知らせしたように、旧図書館の保存活用について市は児童施設として使う、耐震の関係で書庫の3層部分は取り壊すという既定方針を変えるつもりはなく、市民の意見に耳を傾ける姿勢は全く見られません。

 そこで、11月2日の説明会に参加した市民団体(鎌倉・文化の森、鎌倉の別荘地時代研究会、かまくら女性史の会、御成小講堂の保全活用をめざす会、TOTOMOなど)をはじめ、計12団体(上記の団体に加えて鎌倉を愛する会、国宝史蹟研究会、鎌倉柳田学舎、稲村が崎子ども文庫、大佛次郎研究会、鎌倉・湘南景観フォーラム、鎌倉の歴史を学ぶ親と子の会)が、旧図書館の活用方法について市民の意見を聞く場を設け、文化的遺産にふさわしい活用の仕方を求める陳情をともに出すこととなりました。

 ただ、団体名での提出は一つの陳情書につき一団体という制約があるため、12団体の陳情であるとわかるようにするには同文でも団体ごとに陳情書を作成して提出しなければなりません。
12団体のうち鎌倉・文化の森は独自の文案で陳情書を、他の11団体は同文の陳情書を議会事務局に提出し、それらはすべて総務常任委員会に付託されました。

 12月20日の総務常任委員会での意見陳述は、鎌倉・文化の森と同文で出した団体から2団体できるということで、鎌倉を愛する会と別荘地時代研究会の計3名が行いました。
陳述者への若干の質疑ののち、事務局を代表して管財課の課長がこの間の経緯と子どもの家、子ども会館として活用するという市の方針に変わりはないという見解が述べられました。
続いて議員による質疑に入り、審議の結果、市民の意見を聞く場を設けることを強調した鎌倉・文化の森の陳情のみ採択となり、他はすべて継続扱いとなりました。
そして本会議では鎌倉・文化の森の陳情も残念ながら小差で不採択となりました。

 活用方法に関する市の方針を変えさせるのは極めて難しい状況を踏まえて、今後どのように取り組むべきか、陳情をともにした諸団体で協議していきたいと考えています。
陳情書はこちら
議会報告①はこちら

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会報180号(2016.11.30)掲載記事

旧鎌倉図書館の書庫を取り壊してしまったら保存価値はどれだけ残る?


11月2日に、旧鎌倉図書館の保存・活用に関する市の取り組み状況と今後のスケジュールについて関係課の職員から話を伺いました。
耐震調査を踏まえて旧図書館の補強・改修方法及び今後の活用について市に説明会の開催を要請したところ、これから基本設計を委託する業者を決めようという段階なので話せることはあまりないという回答でしたが、0.09という耐震調査結果や文化財登録の進行状況などについて議会で報告された範囲でいいので詳しく話を聞きたいとお願いし、鎌倉・文化の森とTOTOMOの主催という形で説明会を開催することになりました。
参加者は、主催の2団体から10名、その他が5名、市役所からは建築住宅課、経営企画課、文化財課、管財課から各1名、合計19名でした。

まず、耐震補強について、公共施設の耐震基準値を1.25以上とするという市の基準を満たすため、建築基準法に則って2階から3階への階段と3階の書庫の床は取り外し建物を2階建てに改造したい、用途については子どもの家、子ども会館として考えているというのが市の説明でした。 これに対して参加者からは、3階部分を残す工夫をもっと考えるべき、はじめから設計業者を1社に限定せず複数の業者からコスト面も含めて様々なアイデアを募るべきではないか、用途についても旧図書館は鎌倉のシンボル的な建物であり、児童施設に限定せず文化財的な価値を持った建物にふさわしい使い方をすべき、当面は児童施設として使用するにしても2階部分を限定的に(例えば週末だけでも)地域開放して大人が使える施設にしてほしいなどの意見や要望が出ました。 また、文化財登録に関する手続きは進めているのか、基本設計ができた段階で広く市民の意見を聞く場を設けるのか、今後の改修・補強に向けた設計・工事のスケジュールはどうなっているのかなどの質問が出ました。

これらの意見、要望、質問に対する市の回答は次のようなものでした。2階建てに改修する考えに変わりはない、建築基準法の適用除外は考えていない、将来的に書庫の復元は積載荷重に合わせた補強をすれば可能と思う、用途についても児童施設にするというのが市の方針なのでこの場で違うことは言えない、子どもの施設なので不特定多数が出入りするような使い方は難しい、今後のスケジュールは本年度中に基本設計、来年度に実施設計、工事着工は来年度末の予定、基本設計に関する説明会は来年の 2月か3月に開きたい、そこで出た意見を実施設計に取り入れる可能性はあるが用途変更までは無理、文化財登録については御成小旧講堂については進めているが旧図書館については基本設計ができてからになる。

以上のように、改修方法や用途については既定方針通りという回答しか返ってきませんでした。文化財登録についても何もやっていないという答えで、ある程度予想できたこととはいえ、きわめて残念な市の対応でした。 今の段階では何も決まっていないので話せることはないと言いつつ旧図書館の保存・活用について市の方針の基本部分はもう固まっているという印象です。
法の規制があるにしても3階の書庫部分は何とか残す方法を追求してほしいと考えます。旧図書館の保存価値を構成する重要部分である書庫を一度壊してしまったら復元は極めて困難と思えるからです。 用途についても百歩譲って当面は児童施設として使用するにしても、同時に地域に開かれ親しまれる施設として活用することも視野に入れるべきではないでしょうか。直面する行政課題だけに目を奪われず長期的視点に立った施策の実行が強く望まれます。 


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会報178号(2016.7.27)掲載記事

旧鎌倉図書館をめぐる最近の動きを報告します


 旧鎌倉図書館の改修に向け、山手総合計画研究所が市の委託を請けて現状の調査を進めています。 戦後に建て増しされた道路側と消防倉庫側の増築部分は取り払われ、創建時に近い姿になっています。 内部の詳しい状況については、調査報告書が市に提出されたあとに、山手総合計画研究所代表の菅孝能さんにお願いしてお話しいただこうと考えています。 また、7月19日の御成小旧講堂保存活用計画策定委員会で、文化庁の職員が7月7日に旧講堂の文化財登録に関連して視察にきたと報告されました。 このとき旧図書館も視察したかどうかは確認できていません。 

◎文化の森チャリティーコンサート

 6月15日(水)に、昨年7月のチャリティーコンサートを共に行った鎌倉・文化の森の方のお宅で、旧鎌倉図書館・御成小旧講堂保全のためのチャリティーコンサートが開催されました。 演奏者は水谷川優子さん(チェロ)と黒田亜樹さん(ピアノ)。 それぞれ海外にお住いで、つい先日もミラノで共演されたばかりというお二人の息のあった演奏はとても素晴らしいものでした。 ペルトやシュニトケといった、名前すら初めて聞く作曲家の作品には、不思議な世界に誘い込まれるようでした。

 実は水谷川優子さんは、2008年に図書館と協働事業を行った際、鎌倉図書館を会場にしての初めてのコンサートで演奏してくださった方です。 終演後挨拶させていただき、しばし旧鎌倉図書館のことなどについてお話しました。 水谷川さんは「修復されたら私、見に行きますよ。チェロを持って、ね」と微笑んでくださいました。 旧鎌倉図書館は子どもの家・子ども会館として活用することは決まっていますが、市民が利用する、あるいは内部を見学できる余地が設けられるかどうかは不明です。 この水谷川さんの言葉を励みに、少なくとも修復完成記念コンサートができるよう行政に働きかけなければ、との思いを強くしました。

◎永野征男さん講演会

 6月18日、「壊したくない眺め~御成小学校改築計画から見えたこと~」と題して、生涯学習センターで講演会が行われました。 主催は御成小「講堂」の保全をめざす会、講師は都市地理学、地域論を専門とする日本大学名誉教授の永野征男さんです。  御成小の改築は計画案が浮上してから校舎が完成するまで15年もの長い期間を要しています。 その要因を検証する永野さんのお話を伺うと、現在の鎌倉での歴史景観にかかわる問題に重なる部分が非常に多いことに驚かされます。

 改築計画案は2回にわたって白紙撤回を余儀なくされています。 その原因の第一は計画案自体が不備・杜撰だったことにあります。 例えば、地下に眠る遺跡を軽視あるいは誤認していたことで結果的に国の補助金交付が見送られたり、古都保存法や風致地区条例などの法規をよく調べもせずに計画を作り、当時すでに公共建築が木造・木質系を見直す流れにあったのに鉄筋コンクリート造にこだわり高度制限に引っかかって計画が挫折したりしています。 それに加え計画を進めるにあたり父母をはじめとする市民の合意を得る過程で行政側は事実の隠蔽、虚偽の説明、姑息な工作などを行い、いたずらに事態を混乱させています。 改築に15年もかかったのはすべて行政自らが招いたことです。
 地下の文化財だけでなく、地上の文化財である昭和8年に建てられた木造校舎の歴史文化的価値の評価も怠り、まず結論ありきで確かな根拠もなしに計画を作り強引に事を進めるやり方は残念ながら今も受け継がれており、非常に参考になるお話でした。 また、市民運動の記録を残すことや専門家を運動の側に引き込むことが大事であること、市民運動には市民運動の流儀・作法があること、などの指摘が強く印象に残りました。 


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会報177号(2016.6.1)掲載記事

旧鎌倉図書館の保全と活用に向けた活動は まだまだ続きます~~~
吉田鋼市氏講演会・募金パンフレット・100万円寄附 ―旧鎌倉図書館保全運動の経過報告―


◎旧鎌倉図書館、御成小旧講堂は鎌倉大工総力の所産

西洋建築史研究の第一人者で横浜国立大学名誉教授の吉田鋼市さんによる講演会が4月23日に開催されました。 主催はTOTOMOと御成小講堂の保全活用をめざす会の2団体です。参加者は152名でした。

講師の吉田鋼市さんは神奈川県内の建物の調査を数多く手がけ、鎌倉市内の近代建築物についても長年、調査に取り組んでこられた方です。 今回の講演は「御成小学校講堂・旧校舎と旧鎌倉図書館の建築」と題して、昨年、市が保存を決定した旧鎌倉図書館と御成小旧講堂を中心に、 ご自身が調査に携わったときの写真を壇上に映写しながら、それぞれの建物の特徴や歴史・文化的価値をわかりやすくお話しいただきました。

鎌倉の近代建築物というと外から来た著名人による邸宅が注目されがちですが、先生はもともと鎌倉に住むネイティブの人たちが建てたものを遺産としてもっと大事にすべきであると前置きしたうえで、 二つの建物の工事関係者に話を広げ、少なくとも御成小学校旧講堂と旧校舎は棟札を見ると、旧安保小児科医院などを建てた三橋直吉や旅館対僊閣などを手掛けた三橋幾蔵をはじめとして昭和戦前期の主だった鎌倉大工が総出で建築に当たったことが分かる、 旧鎌倉図書館については記録が残っていないが、同様のメンバーによる一連の建設事業ととらえられるというお話でした。 そして、そこには建長寺など鎌倉の伝統建築の技術が脈々と受け継がれているのではないかということでした。

後半の参加者からの質問に答える時間では「建物は50年、100年たってこそ建物になる。 古いからといって安易に取り壊すのは犯罪に等しい」と述べられたのが印象的でした。
参加された方からのアンケートの感想をいくつか紹介すると、「歴史的、文化的背景がわかりおもしろかった」「27団体もの後援を受けての講演会だということで、素晴らしいことだ」 「保存されるだけでなく、“この建物ならでは”の活用方法を見つけなくてはと改めて思った。旧図書館は外観だけでなく内観も現役のころのものを復元し、 この建物の素晴らしさを感じられるように残せればと思う」など、素晴らしい感想を寄せていただきました。 今後の活動についても、二つの建物の活用の仕方について「シンポジウムを開いてはどうか」 、また「不審火などに注意し、明月荘や大磯吉田邸のようにならないよう市も気をつけるべきだ」 などの貴重な意見をいただきました。
なお、次に述べるように、募金をPRするパンフレットを市と協働して作成し、 講演会のなかでも市の担当職員に直接参加者にパンフレットの説明をしていただきました。 これらのことも保全運動の一つの成果ではないかと考えています。

◎市発行の募金パンフレット作成

前号で旧図書館・旧講堂に特化した募金を呼びかけるパンフレット作りについて市と協議中とお知らせしましたが、 紆余曲折がありながらも4月23日の講演会で配布することができました。 当初、市は特定の建物に限定した募金パンフレットを作ることに消極的でしたが、協議の末、 パンフレットとそれに挟み込む市長名の趣意書の原案をTOTOMOと御成小講堂の保全活用をめざす会が作り、 印刷・発行は市が行うということで進めることになりました。

しかし、パンフレットの文案、写真、レイアウトについて市の担当課と何度もやり取りする過程で、 市から「旧図書館・旧講堂の保全」という表現を「旧図書館・旧講堂の外観の保全」に変えてほしいという提案がありました。 外観を取り繕うだけの保全と受け取られかねない表現は私たちとしても到底受け入れられず、一時、調整は難航しました。 メールでのやり取りでは解決できないので、4月18日に市の都市景観課、経営企画課とランチミーティングを行い、 表紙には「外観」の語句は入れず、裏表紙のふるさと寄附金を案内するページに「外観の保全及び活用にご協力を」とし、 そこに「外観の保全には外観を保全するために必要な修繕(耐震改修や構造補強など)も含まれます」という注記を入れることで合意しました。

こうして末尾に「発行:鎌倉市」の文字と並んで「協力:御成小講堂の保全活用をめざす会 図書館とともだち・鎌倉」と明記されたパンフレットの発行が実現した次第です 。4月23日の講演会が目前に迫るぎりぎりの作業が続きましたが、合意後、決済の手続きを迅速に進め、 予算がないなか印刷してくださったことも含め市の対応に感謝したいと思います。

◎ととも基金より100万円を市に贈呈

 5月11日に、旧鎌倉図書館保存ととも基金に集まった募金から100万円を市に寄附しました。 チャリティーコンサートでの収益金をはじめ見学会やシンポジウム、 署名活動などの機会に集まった募金など、ととも基金の総額が100万円を超え、 募金の使い道を旧鎌倉図書館の保全に指定できるようになったことで、ふるさと寄附金制度を活用するかたちで市に寄付することにしました。

 寄附するにあたっては、なるべく早く登録有形文化財の手続きを進めてほしい、 外観だけでなく婦人閲覧室や書庫など創建当時の姿を残している部分の保存に努めてほしい、 今後の活用の仕方について広く市民の意見を聞いて決めてほしいことなどを要望しました。 これに対して市長は、文化財登録は積極的に進めたい、建物内部の原形保存は耐震工事との関係で難しいところもある 、市民と一緒に取り組む態勢作りは重要と認識している、と回答し謝意を表しました。


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会報176号(2016.3.30)掲載記事

旧鎌倉図書館の保全をめぐる現況報告


◎1・31にシンポジウムを開催

1月31日に中央図書館多目的室で「御成遺産の保全と活用を考えるシンポジウム」を御成小「講堂」の保全活用をめざす会との共催で開催しました。 講師は作新学院大学教授で日本図書館文化史研究会の小黒浩司さんと鎌倉の別荘地時代研究会代表の島本千也さんのお二人です。 小黒さんには昨年11月28日のシンポジウムに引き続き講師をお願いしました。 参加者の方から会報に感想を寄せていただいていますので重複しない範囲で概要を報告します。 参加人数は市議、市職員、御成小旧講堂保存活用計画策定委員会委員などを含む52名でした。

まず小黒さんからは「旧鎌倉図書館と御成旧講堂をどう活用するか」と題して、参考になる他市の様々な事例が紹介されました。 鎌倉においても児童の教育環境や地域住民の生活環境に留意しつつ、 文化・教育施設としての活用や観光資源(例えば鎌倉の近代史をめぐる散策路)として活用することが考えられるとし、 他地域の具体例として喫茶店、ギャラリー、貸しスペース、ビジターセンター、漢籍の書庫などの事例が豊富に提示され、 前回のシンポジウムと同様に貴重な情報を得ることができました。

島本さんは「鎌倉の別荘地文化と御成遺産」と題して、近代鎌倉は別荘地・保養地として発展し特色ある文化が形成された、 現存する建築物だけでなく記録・記憶として残るもの、文化人や篤志家の足跡なども含めた近代遺産を大切に引き継ぎ次世代にパスしていかねばならない、 旧講堂・旧図書館など御成の地に残る遺産も別荘地時代の象徴的存在として貴重である、とくに旧図書館は鎌倉の近代史資料館として活用することに大きな意義がある、 その土地の歴史を知らずして土地への愛着は生まれるはずもない、と話されました。 また、「御成遺産」という言葉は今後定着するとよいと思うと付け加えられました。

◎2・20旧図書館見学会実施
 1月のシンポジウムに続き、御成小「講堂」の保全活用をめざす会との共催で2月20日に旧鎌倉図書館見学会を開催しました。 これで5回目の見学会になりますが、スタッフ8名を除いて23名の参加者がありました。 旧図書館保全への市民の関心が依然として高いことがうかがえます。 この見学会についても参加者の方から今号に感想を寄せていただいています。 4月に入ると旧図書館の保全に向けた本格的な調査が行われ、そのあと改修・補強工事に入るので、今回の見学会が最後の機会となりました。 なお、市から委託を請けて調査を行うのは山手総合計画研究所に決まりました。 その代表を務めるのは昨年2月のシンポジウムや7月のチャリティコンサートで講演していただき、5月の旧図書館現況調査では中心を担い報告書をまとめてくださった菅孝能さんです。 心強い限りです。

◎御成遺産グループの発足、そして募金活動
 昨年12月、御成小「講堂」の保全活用をめざす会からの呼びかけで「御成遺産グループ」という集まりが発足しました。 TOTOMOのメンバーも初回から参加しています。建築家、歴史研究者、NPO活動をしている方、IT関係の仕事をしている方、市職員など多彩な人たちが集まっています。 「御成遺産」をキーワードにして様々な分野で活動する人たちが集い知恵を出し合って大きな流れをつくり出せれば旧図書館・旧講堂の保全運動の広がりと前進につながるのではないかと考えます。 発足して間もないグループですが、今年に入って上に述べたシンポジウムや見学会を共催するきっかけとなり、 4月23日には近代建築物の調査を多数手がけ西洋建築史の権威である吉田鋼市氏を招いて講演会を生涯学習センターホールで開催することになりました。詳しくは折り込みの
チラシをご覧ください。

 このように旧図書館保全のことをより多くの方々に知ってもらう活動は広がりつつありますが、 保全運動のもう一つの柱である募金活動についても、昨年11月に景観重要建造物等保全基金条例が制定され、ふるさと寄附金制度を通じて旧図書館と御成小旧講堂に寄附金の使途を指定して募金できるようになりました。 この仕組みを活用して多くの募金を集めるために旧図書館・旧講堂保全への寄附を呼びかけるパンフレットを作ることを市に要望し、現在関係部署と協議中です。 保全運動の三本目の柱である文化財登録については、今のところ進展はありません。 最後に、雑誌の「OZマガジン」から取材があり、4月12日発売予定の5月号に記事が掲載される予定であることをお知らせします。  


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会報175号(2016.1.20)掲載記事

「旧鎌倉図書館の保存と活用を考えるシンポジウム」報告
旧鎌倉図書館の保存価値がより明らかになりました


 TOTOMOの旧図書館保存運動を支援してくださった日本図書館文化史研究会からの提案で、昨年11月28日に「旧鎌倉図書館の保存と活用を考えるシンポジウム」を共催で開きました。
場所は鎌倉市中央図書館、参加者は35名です。
発表者は筆者と日本図書館文化史研究会の小黒浩司氏(作新大学教授)の2名です。
私からは1911年(明治44)に創設されて以降の鎌倉の図書館史を簡単に触れたうえで、旧鎌倉図書館の建築物としての特徴、一年間にわたる保存運動の経過と今後の課題、現時点での中間的総括を含めた運動の意義について話させていただきました。

小黒さんからは近代日本の図書館建築の歴史的変遷や全国に現存する数少ない戦前期の木造図書館建築の事例について、それぞれの特色、保存・活用状況をお話し下さいました。
そしてそのことを踏まえて、旧鎌倉図書館を保存することの意義について次のように述べられました。
「戦前期でも関東大震災以後は鉄筋コンクリート造が多い、また閲覧室と書庫を分離する保存重視の建て方から利用重視の合築型の建て方に変化していった。
翻って旧鎌倉図書館を見てみると、建築工法的に当時すでに主流である鉄筋コンクリート造ではなく木造であること、平面構成的には閲覧室・書庫一体型であること、しかも木造でも書庫は荷重が大きくかかるため鉄筋コンクリート造にしている例はあるが、旧鎌倉図書館のように書庫を含めて木造の一体型という図書館は極めて珍しい。
創建当時の木製書架が書庫にそのまま残されているのも希少価値があり、入口のすぐ右側にある受付窓も図書館利用が有料だった時代の名残を示しており、戦前期図書館建築の最後を飾る貴重な文化遺産と言える。 また、当時主流でなかった木造という建築工法が選ばれたのはなぜかということも興味深い。建築資材の入手難、資金不足なども考えられるが、軍港があった横須賀が近いこともあり、要塞地帯法による制限が関係しているかもしれない。
その意味では一種の戦争遺産とも位置付けられる」。

これまで旧鎌倉図書館の特徴について創建時の姿を残す婦人閲覧室や書庫、和洋折衷の外観などに注目してきましたが、近代日本の図書館建築の流れのなかに位置づけ、建築工法ならびに平面構成の変化という新しい視点から旧鎌倉図書館を評価するお話は非常に新鮮でした。
関東大震災をはさんで図書館建築は煉瓦造・石造から鉄筋コンクリート造に変化しており木造はそもそも工法的に主流ではなかったこと、しかも閲覧室・書庫が一体となっている木造の図書館は稀有な例であることを知り、まさに目からウロコの思いです。
市の文化財課と登録有形文化財の申請について話をしたとき、職員から申請に当たっては文化財的な価値についてもっと肉付けが必要だと言われましたが、小黒さんの論証によって旧鎌倉図書館の文化財的な価値が一層明らかになったといえるのではないでしょうか。
その意味で旧鎌倉図書館の保存・活用に向けて意義深いシンポジウムになりました。
                   

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会報174号(2015.11.25)掲載記事

旧鎌倉図書館保存をめぐる議会と行政の動き


 長期に延会となっていた9月議会が10月20日に再開されました。
旧図書館関連では10月26日に建設常任委員会で鎌倉市景観重要建造物等保全基金条例案が審議され、総員賛成で可決されました。
この審議のなかで委員からは「市民が寄付する際、この建造物に寄付金を使ってほしいと指定できるような規定が必要ではないか」 「ある建造物を景観重要建造物として市が指定するときは、行政の判断だけで決めずに専門家の評価を得て決めるべきではないか」などの意見が出され、市も検討すると答弁しました。

 旧図書館耐震・補強設計等業務委託料3716万3千円を含む補正予算の審議は10月27日、28日の総務常任委員会で行われました。採決では委員長を除く6名の委員のうち賛成2名、反対3名、退席1名で補正予算は否決となりました。
反対3名のうち2名は北鎌倉の洞門を開削する工事費が含まれていることを主たる理由としたものであり、1名は市長の旧図書館保存への方針転換は説明不足であり議会軽視につながるとするものでした。

 10月30日の本会議では賛成多数で補正予算は成立しましたが、同じ予算の中に景観を保全するための予算と景観を壊す別の予算が一括されているというやり方には違和感を覚えざるをえません。

 基金条例と補正予算の成立を受けて、市の関係課と私たちが要望している三つのポイントについて協議しました。一つ目の、可能な限りオリジナルな形を残して補強、修復してほしいという点について 、市は外観の維持を第一義に考えている、書庫の3層部分の保存は耐震補強との絡みで難しいということでした。
書庫についての説明は納得できないので、専門家の力を借りながら今後も保存の可能性を追求していきたいと考えます。

 二つ目の、基金に募金するとき、どの建造物のために使うか指定することもできるような運用基準を設けてほしいという点については、議会でも指摘されたことであり、 寄附金の管理は台帳で行うが、その根拠となるものを要綱の形で明文化し例規集に掲載する予定であるという回答でした。

 三つ目の、なるべく早く登録有形文化財の申請手続きをしてほしいという点については、まだ申請するかどうか決まっていない、かりに申請するとしても認可まで時間がかかるということでした。 原形の保存、補助金の交付、後世への存続などの観点から引き続き関係課への働きかけを行っていきたいと考えます。

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